羽田建築設計事務所

石と鉄の回廊-no.505 Hiroshima Winery-

種別:用途変更
所在地:広島県三原市大和町
構造:木造 一部鉄、石
規模:平屋建て

果樹園の片隅で使われなくなり放置されていた既存テラスを外殻で覆い、多目的ワイナリーにコンバージョン(変換)した。
休憩スペースやワイン販売、イベントや演奏会など、憩いの場として多用途に対応することができるよう建物に可変性を持たせ、装飾物や間仕切り壁など余分な要素を排除。
加えて新設部の外壁と屋根を同一素材でシームレスに仕上げることで、外観は既存の印象も残しつつ周囲の環境と調和するため、見る人が共感を得やすいデザインになっている。

計画地である広島県三原市の大和町出身のオーナーが、自社で「可能な限り自然と人が寄り添う考えを持ち、自然の力と人の知恵が織りなす優しいワイン」というコンセプトの「生きるワイン」を醸造することが目的で始まったプロジェクト。 昨今注目されている、薬品を極力使用しない自然農法を取り入れることで、若い世代にも興味を持ってもらい、地方である大和町を活性化させることも目的の一つ。 それを実現させる場となる建物も、周辺環境を活かし、多様な要望にも対応できる、ここでしか実現できないデザインを求められた。 もともとあるものを破棄するのではなく、新たに生まれ変わらせることで、新旧の要素が融合するデザインとし、再利用のため環境への負荷にも配慮。 多目的スペースも確保することで、憩いやキャンプ、イベントスペースなど多様性に対応可能。
環境負荷低減、多様性への対応、自然農法による生きるワインにより、これからの施設の一つの在り方を提言するプロジェクトになった。

ハードとしての建物は、単純なワイナリーのみの機能だけではなく、時には憩いの場として、人と人、自然が寄り添える場となるよう、「形と用途を変える建築」となるよう計画した。

通常時は醸造の温度管理のため開口部は閉めきり、ワイナリーとして機能するが、開口部を開け放つことで、既存の石柱と鉄のフレームが連なる、1つの回廊となる。

ただ回廊が連続するだけの単一的な印象とならないよう、部分的に壁と屋根で囲うことで、空間に変化を生じさせた。
無駄のない要素で構成された建物と、周囲の環境との調和により、空間自体が1つのインスタレーションにもなっている。

イベント時には、回廊を利用し一部は舞台、一部は舞台裏や楽屋、倉庫として機能する。
あくまで空間やワイン、集う人々を引き立たせるため、建物は周囲と調和させ、屋根には樋は設置せず、雨が前面の草原に流れて浸透する。 自然との共生を体現する施設とした。

本プロジェクトのキーワードとして、【地方創生】と【環境と健康】が挙げられる。

【地方創生】は、地元出身者が寂れた空間を再生し、地産地消のワインを製造、販売。イベントなどの多目的な場としてにぎわいを創出する。それに対応する「形と用途を変える建築」としてワイナリーを計画した。醸造した地産ワイナリーを全国に広め、地元の名前を認知させる。

【環境と健康】は、既存を再利用することで環境負荷の低減を図ることと、ワイナリーを取り巻く環境の個性を最大限活かすこと、人同士や自然がふれあう環境の提供であり、そこで提供する「生きたワイン」で心身ともに健康に利用できることである。

オーナーは東京でイベントプランの会社も経営しており、ファッションショーや有名ブランドのイベントを手掛けてきた実績を活かし、ワイナリーでのイベントでは先鋭的な設営や、地元飲食店とのコラボを積極的に行うなど、これからの新しい地方創生の形を実現していく予定である。

2024年5月に開催されたオープニングイベントでは、同ワイナリーで醸造したワインを提供した。昼の部では地元周辺の飲食店の出店の出展や、多目的スペースでの演奏会を行った。
夜の部では人数限定でワイナリーの目の前の草原でディナーやワインの提供と多目的スペースでの演奏会や、キャンドルで独創的な空間を演出。
ディナーも地元の飲食店や素材を使用した地産地消のメニュー。就寝時は参加者がテントを張ってキャンプを行った。ワインとキャンピングを融合させた「ワインピング」イベントとなった。
今後も地方創生や人と自然とのふれあいの場として、積極的にイベントを行い、ワインも全国に広めていく。