羽田建築設計事務所



あわいが連なる家

種別:新築
所在地:広島県呉市吉浦中町
構造:木造
規模:2階建て 121.10㎡

「あわい」とは、物と物とのあいだ、異なる要素が重なる部分のことで、建築的な「あわい」は、内と外との中間的な縁側などがそれにあたる。
この度の「あわいが連なる家」は、計画地「吉浦」の特徴的なまちなみや瀬戸内海、島々の眺望を建物内に取り入れ、外観も周辺との調和をしつつ、周囲からの視線のカットやプライバシーの確保を行いながらも、明るく開放的な室内空間を確保するというクライアントのご要望を、建物を囲う3つの「あわい」により実現している。
また、高気密高断熱化により、大空間でも快適性を確保し、緑を感じながら眺望を臨む、五感でやすらぎを感じることができる計画とした。

計画地は、JR吉浦駅から昭和地区に向けて延びる県道278号焼山吉浦線沿いに位置し、この道路に沿って連立する商店街や町の雰囲気や眺望、年間を通して行われる様々な行事をクライアントが気に入り、この土地で住宅の建築を行うことになった。
吉浦は山が海まで迫っている関係で平地が少ない。計画地も山の斜面に沿った場所になっており、背景には山、眼前には吉浦のまちなみと、その奥には瀬戸内海を隔てて江田島を臨むことができる。
そのような立地から、民家の軒が山の麓から中腹まで連なるまちなみが吉浦の特徴の一つなので、計画建物の大屋根部分の形状は山の斜面に沿った片流れとし、周囲の軒の連続性と背景の山の稜線と調和する形状を採用した。

外観のデザインは周辺の景観との調和を根幹とし、自然素材の採用を始めとして、無機的な要素を極力排除した。大屋根部分は背景に沿った傾斜としているが、周囲に合わせたというだけの単一的で味気ない外観にならないよう、手前の屋根は逆方向の勾配とし、外壁材を使い分けることで明確に分かれた2つのボリュームが連なり、中庭を介すことで2つの片流れ屋根が交差する、特徴的な外観としている。
化粧登り梁が連続して構成される大屋根は、鉄柱で支えることで外観に浮遊感を与えている。
また、屋根傾斜を分けることで、北側隣地への日射の入りやすさにも配慮した。

外壁にはシラス台地から採れるシラスを主原料とした「そとん壁」と、「焼杉」を採用。
土壁と同様の工法により施工されるそとん壁や、杉板の表面を焼いて炭化させた焼杉は、自然素材であるだけでなく、古くから日本家屋に使用されていた素材や工法のため、伝統的な要素によって構成することでも周囲の景観との調和に繋がっている。色彩も奇抜なものとせず、焼杉の黒やそとん壁のグレー、アクセントの化粧梁により、風景に溶け込む。
屋根の軒も深く確保し、外壁の保護や日射調整、軒下スペースの活用を行うことができる。
伝統と格式を重んじる町「文武両道」の町「吉浦町」に根付く、人間の生活と自然との調和を図る有機的建築となるよう設計した。

■一のあわい                            
建物の中心に位置する中庭で、玄関ホールやLDKなど、建物全体に光と植栽の景色を届ける。                                              
一のあわいを囲むように建物を配置し、屋根をかけることで特徴的な外観を形成している。1階部には駐輪場と坪庭を配置し、2階部は外からの光を取れながら、周辺からの目線や西日をカットしている。                                      
夜は一のあわいから漏れ出す光により、昼とは違った外観の表情を楽しむことができる。            

■二のあわい
1階のプライベートな庭に位置する二のあわいは、玄関に入った時にガラス越しに坪庭を見ることができ、住まい手や来客を出迎える。
洋室から出入りでき、上部に屋根がかかっており、大きな縁側として住まい手の憩いの空間としても使用することができる。
植栽は吹抜けを通して2階へ伸び、2階LDKへ緑を届け、LDKへの視線のカットしている。

■三のあわい
LDKに沿って横に広がる三のあわいは、縦に伸びる一と二のあわいをつなぎ、3つのあわいが一体的にLDKを囲い、室内の開放感と明るさ、眺望を確保している。
また、深い軒によって外壁を雨風から保護し、日射も調整。半屋外空間としても利用でき、LDKから直接出入りできる第二の庭として憩いの場になっている。
深い軒や南側の立ち上がった腰壁によって周囲からの視線をカットすることに加え、腰壁は南側の民家が隠れる高さに設定したことで、軒と腰壁の間からは瀬戸内海と遠くの島を見渡すことができる。
バルコニーのウッドデッキはLDKと一体的となり、より室内空間に開放感を与えている。